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2014-12-01
借金には2つのパターンがある――悪い借金をする人がハマる落とし穴
金融やお金にまつわる話になると、どうしても難しく語られがちなので、敬遠する人も多いのでは。筆者の森永賢治さんは「お金の知識」ではなく、「お金のセンス」を磨けばスムーズな生活が送れるという。金融関連の広告を手掛けて15年。人々の意識や行動をつぶさに観察していると、いろいろなことが分かってきた。
金融は、色や形や匂いのないもので、ある意味、「価値そのもの」であるから、「お金」に向き合う人々の心理や性格を面白いように映し出す。そこには、プライドや自己顕示、はたまた不安と恐れという感情も絡み合い、複雑で多様な「行動」につながっていったりもする。我々は、そういったお金にまつわる意識と行動特性をとらえ、広告をはじめとするコミュニケーション活動に生かしているわけである。最近では「行動経済学」といった呼び名で学術的な側面から語られることが多いが、今回のシリーズは実際の現場観察&分析から話をしていきたい。
全7回に渡るシリーズの基本テーマは「お金もセンス」。お金の話となると、どうしても難しく語られがちで、特に金融リテラシーのあまりない日本人にとっては敬遠しがちなものだが、実は、お金との関係は、ちょっとした「センス」を持つことで、非常にスムーズになるのである。お金とうまく付き合い、幸せな毎日や人生を送っている人の多くは、「お金の知識」ではなく、「お金のセンス」をたまたま持ち合わせた人である。実は、日本人は、この「お金のセンス」のない人が多い。
このセンスを身につけるのにはどうしたらいいのか。そのための第一歩は、お金が及ぼす人々への心理と行動をきちんと理解することである。
さて、ここで「借金」の話である。「お金もセンス」というと、貯蓄や投資のノウハウかと期待された方も多いと思うが、実は、お金に対する人間の業(ごう)というか、本性に向き合わされる瞬間は、「お金を借りる」時である。
自分とは関係ないという人もいらっしゃるだろうが、そんなことはない。住宅ローンやマイカーローンもりっぱな借金である。キャッシングやカードローンも20~50代で約30%が利用経験者である。親や友人にお金の無心をした人を入れると、「無借金」な人生を送れる人はごくごく少数ということになる。つまり、ほとんどの人が直面するテーマなのである。 今回は、特に、キャッシングにおける人々の心理と行動をご紹介する。そして、その中で、どうしたら「借金」とうまくつき合っていけるかを感じ取りその「センス」を身につけてもらいたい。
●お金を借りる時の心理と行動
「お金が足りない、借りないとにっちもさっちもいかない」という時、実はそれでも約半数近くの人が、「我慢する」。その次に預貯金の切り崩し、親や妻、友人からの借り入れと思いきや、親や友人からの借り入れは「人間関係を壊しそうでイヤ!」「何かと面倒」という人も多く、気軽に利用できる金融サービス、つまりキャッシングを選ぶ人も多い。そこには、「借金」=「不名誉」というネガティブな心理があり、「人に知られたくない」という行動につながる。
以前、地銀のカードローンの仕事をしていて、その際に行ったグループインタビューで、面白い意見があった。「自分は絶対地銀ではお金は借りたくない」というその女性は、理由として「地元の銀行や信金には必ず自分の親類縁者が働いていて、その人にお金を借りていることを知られたくない」ということだった。それで、むしろ金利の高い消費者金融の無人契約機を利用したという。
また、ある人は「自分のメインバンクでは借りたくない」という。担当者のこともよく知っているし、何より、住宅ローンなどの借り入れの時に不利になるのではないかという意見である。銀行は上から目線だからイヤという人もいた。
これらから分かることは、彼(彼女)らは、決してやましいことはしてないのに、コンプレックスを抱えていることである。それだけに、金融機関は利用者のそう言った心理をよく理解していて、人に見られることのない無人契約機や、ネット完結型のサービス、「借金」していることが分からないコンビニATMでの利用、また、カードのデザインも、普通のクレジットカードやキャッシュカードのようなものにしたり、さらには自宅へのDMの封筒や、会社への電話なども金融機関名を明かさないといったきめ細かな努力をしているのである。
●焦ってはダメ
広告の表現においても、利用者の心理に照らしたものが数多くある。例えば、「借金」の暗さを払しょくする明るいトーン、利用者に「借りる言い訳」を与える利用シーン、みんなが気軽に利用しているというポピュラー感など。
さらに、コピーにも工夫を凝らす。無担保のキャッシングも、今や300万円とか500万円とか借入額の上限が高くなってきているが、以前行ったテストマーケティングでは「500万円まで貸せます」というより、「1000円からのお借入れ」と謳(うた)ったほうがはるかに新規の申し込みがあった。これは「借金」の大きな金額に対する「恐れ」をよく表している。
貸付上限の金額が大きいほど「返せるのかしら!?」という不安も同時に高まるのである。しかし、これは逆に言うと「少しの借り入れだったら大丈夫」という心理が人間にはあるので注意が必要だ。
また、同じローンでも住宅ローンはPCからの問合わせや申込みが多く、キャッシングは携帯やスマホからの申込みが多いという事実がある。確かに住宅ローンはじっくり比較検討して時間をかけて選ぶもので、結果PCの利用が主となるが、キャッシングは急にお金が必要になる場面が多く、いわば衝動的に手元にある形態やスマホで申し込んでしまうのだ。そこにある心理はちょっとしたパニックと言っていい。実際に、消費者金融での新規申込みの際に他社比較検討や金利比較はあまり行っていない(つまり貸してくれるところであればどこでもいい)という心理を反映した調査結果もある。
ちなみに50%近くの人が、思い立ったその日のうちに申し込みをしている。つまり、「急いでお金を工面しなくては!」という焦りが、人々の冷静な判断を狂わせるのである。
●借金には「良い借金」と「悪い借金」がある
さて、前述した「恥ずかしい」「人に見られたくない」という心理であるが、これは、ライトなうちは「借金」への“抑え”としてうまく機能してくれている。ところが、なんとそれが、ヘビーユーザーへ進化する大きな“元凶”でもあるのだ。その点をこれから詳しく述べていきたい。
「貧すれば鈍する」――。これは、私の父親が生前よく口にしていた言葉である。幼い頃から何度も聞かされた。皆さんもご存じだと思うが、これは「貧乏すると毎日その生活のことばかり考え、才知が鈍ったり品性が下落したりする」という意味で、「お金の心配は、心までも貧しくするのでくれぐれも気を付けよ」といった人生訓である。
特に、昔は「貧する」人が多かったこともあり、その中でこころ気高く生きよ、というエールでもあったのかもしれない。実は、この言葉を再び思いだしたのは、キャッシング多重債務者のインタビューを行った時である。
借金には「良い借金」と「悪い借金」がある。「良い借金」とは、“前向きで計画的”な借金である。良い人生を築くための先行投資といってもよい。借りることで、目の前の課題を乗り越え、チャンスを生かすことができる、そしてそれを自分の身の丈で計画&実行できることである。その場合、その人が、お金持ちか貧乏であるかはあまり関係ない。その人の意志と性格により「よい借金」になる。
逆に「悪い借金」とは、今の快楽や目先の問題に感覚的に振り回され、無計画に、そして身の丈を越えて抱え込んでしまった“負債”である。インタビューでは、もちろん前者もいたが、後者「悪い借金」の道へと進んで行った人も何人かいた。彼らを例に借金心理のダークサイドを覗(のぞ)いてみたい。
●「借金」におけるセンス
これから描くA氏は、複数の人から抽出したステレオタイプであることをご了承いただきたい。
A氏のキャッシング利用のきっかけは、ちょっとしたケガの治療費としてだった。借入金額も数万円というレベル。しかし、元来ギャンブル好きな彼は、負けが込んできた時に折角作ったのだからとカードローンを使うようになる。それから、あっという間に借金が増え、利子の返済に追われる日々が続く。そして、そのうちに離婚。今は独り暮らし。よくドラマで見るような光景だが、その時の心理状態についてのコメントが非常に興味深かった。
(1)恥ずかしいから、プライドがあるから“見栄を張る”
人に知られたくないから妻にも当然嘘をついていた。また、お金がないとか借金があるとか思われたくないから気前よく人におごったり、大きな買い物をしたりした。
(2)借りれるお金は「自分のお金」
いつのまにか、借金も自分のお金として勘定した生活習慣になってくる。借りれるうちは借りないと損という気持ちで、そのうち借金を収入として勘違いし働くのをバカらしいと思うようになる。
(3)ストレスがたまり冷静な判断を失う
常に借金のことばかり考えているのでうつ状態で自分にも自信が持てなくなる。すべてにやる気を失い、問題を先送りにしようとする。とにかくすべてのプライオリティは次回の返済。同時に、一発逆転を狙って投資やギャンブルに向かうが、さらに借金を抱え込むことになる。
上記の3つは一例だが、お金との付き合いのバランスを失うと、さまざまな心理状況の中で負のスパイラルが起こる。当事者でなければ、なかなか理解しがたい心理かもしれないが、これは誰にも起こりうる負の連鎖なのである。「貧すれば鈍する」……まさに、平時であればありえないよう思考と感情で正常な判断ができなくなるのだ。
「借金」におけるセンスとは、常に、自分がどの状況にいるか判断し、ネガティブなスパイラルに陥らないよう気をつけるバランス感覚である。前向きな状況での「借金」は、むしろ人を成長させ、モチベーションを高めるエンジンでもあるのだ。